事例紹介

現場を変えた「未来のツール」 共通言語が結ぶ創造の架け橋イメージ

現場を変えた「未来のツール」 共通言語が結ぶ創造の架け橋

ソニー銀行株式会社

業種 金融
現場を変えた「未来のツール」 共通言語が結ぶ創造の架け橋イメージ

人がクリエイティブを見た際の反応を仮想脳が予測し、評価を下す──。AI(人工知能)を駆使したクリエイティブ評価ソリューション「D-Planner」の話を初めて聞いたとき、ソニー銀行マーケティング部・シニアマネージャーの久保田直人氏は「まるでSF映画か漫画のようだ」と思ったという。同社がD-Plannerを導入して約1年。活用によってどのような変化が生まれたのか。久保田氏と同部・マネージャーの板谷由依氏に話を聞いた。

──マーケティング部の業務内容とミッションをお聞かせください。

久保田直人氏(以下、久保田氏):私たちのチームは、幅広い消費者を対象とするマスマーケティングを担当し、テレビCMや動画広告などを手掛けています。これらPR活動を通して新規顧客の獲得を図り、多くの方々に口座を開設してもらうことがミッションです。

ソニー銀行株式会社 マーケティング部 シニアマネージャー 久保田直人氏
ソニー銀行株式会社 マーケティング部 シニアマネージャー 久保田直人氏

──D-Plannerを導入したきっかけは?

久保田氏:導入したのは約1年前です。初めてご提案をいただいたときの率直な感想としては「こんなことが本当にできるのか」。データをインプットすれば仮想脳がコンテンツ視聴時の脳活動を予測・分析し、そのアウトプットをもとにPDC(計画、実行、評価)を回していく──。まるで、電脳を駆使するSF映画や漫画のようだと感じました。

これがもし実現できるなら、願ったりかなったりでした。というのも、私たちマーケティング部と実際に制作を担当する側では、クリエイティブに対して求めるものが異なるからです。具体的には、私たちが口座開設数の増加など明確な数字を成果として追うのに対し、制作側はより創造性の高いものをつくりたいと考えています。

この隔たりを埋め、共通のテーブルで議論するためには、制作側の要望を定量化する必要があります。でも、そんなこと容易にはできません。長年頭を抱えていたところに、D-Plannerの話が飛び込んできました。このツールなら数値化の難しいクリエイティビティの箱を開け、見える化できると。まさに、私たちにとっての課題をダイレクトに解決してもらえる提案でした。

──実際に課題は解決できましたか。

久保田氏:そうですね。たとえばCM制作時、私たちが消費者に最も伝えたい場面をD-Plannerで分析したとき、「行動意向」や1カ月後に記憶に残っているかという「記憶定着」の数値が下がっていたら、これを根拠に「この絵の数値を上げたいから、変更しましょう」と、制作側に相談を持ち掛けられる。

これまで制作に関してはクリエイターの経験や勘頼りの部分が多かったのですが、おかげで共通の言語ができました。まさに架け橋のようなツールです。

※WEBCM「ボルダリング」篇 行動意向予測分析結果
※WEBCM「ボルダリング」篇 行動意向予測分析結果
※WEBCM「ゲーム課金」篇 記憶定着度予測分析結果
※WEBCM「ゲーム課金」篇 記憶定着度予測分析結果

板谷由依氏(以下、板谷氏):視覚的・聴覚的に気持ちがよく「素敵なCMができた」とひざを打っても、視聴者の画面上の視線をヒートマップで示す「アテンション予測」を使うと、意図していない部分に目線が集中している結果になったこともありました。既存のクリエイティブと照らし合わせて満足してしまい、見逃しがちな「落とし穴」をD-Plannerはコマごとに指摘してくれます。

それに改善すべき箇所がはっきりすれば、修正方法も具体的に見えてきます。「この場面で記憶定着度が落ちているのは、画替わりが無いからでは」という風に。クリエイターの経験と勘に加えて、数値をもとに仮説を立てて動けるのは、このツールならではだと思います。

ソニー銀行株式会社 マーケティング部 マネージャー 板谷由依氏
ソニー銀行株式会社 マーケティング部 マネージャー 板谷由依氏

──導入にあたり、制作側のハレーション(反発)は生まれませんでしたか。

板谷氏:それはありませんでした。お取引している広告代理店や制作会社の方々は新しいツールに関心が高く、D-Plannerにとても興味を持っておられました。

久保田氏:みんな「未来のツールだ」という感じで、一緒になってこれを使ってトライしてみましょうと。とはいえ、実際に運用するにあたり、互いに意見が一致しないことももちろんありました。

──どのように着地させたのでしょうか。

久保田氏:以前のCM制作のとき、真っ暗な背景に出演者と文字が浮かぶ絵を制作側が希望しました。ところがD-Plannerでそのシーンを評価すると、商品のイメージがダークになるためか、記憶定着度が下がってしまった。

そこで現場では、徐々にライティングの照度を変えていき、何段階も調整して、どの明るさが一番適しているのか試しました。制作側に対して「ツールでこうした結果が出ているから」と、ひたすらにこちらの我を通すわけではありません。クリエイターの意見も尊重し、互いに納得できる地点をしっかりと見極め、中間を探っていきました。

このように、向こうの考えを「そういうものか」とうのみにせず、ロジカルに、建設的に話ができるようになったのは大きな前進です。また、仮説の検証を重ねることで経験値をため、さらにツールを使いこなすという好循環も生まれています。

──使い勝手についてはいかがですか。

久保田氏:目的に応じて細かく設定ができる機能がとても便利です。たとえば「今回は若年層にアプローチをかけたい」と制作物に対して会社から注文があったとき、年齢別のセグメンテーション(区分)で分析にかければ、クリエイティブの精度はより高くなります。

各業種業態の過去のクリエイティブや平均値も搭載されているので、そこと比較しながら細かくチューニングできるのもありがたい。また、以前はブランドリフト調査などで時間をかけて探っていたさまざまな指標が、あっという間に、それも制作段階で確認できるようになりました。これはちょっとすごいことです。

昨年と今年は特にたくさんのクリエイティブをつくりましたが、制作サイクルをこれだけ速く回せたのはD-Plannerがあればこそ。トライアンドエラーや情報収集の回数を圧倒的に増やせる一方、社内から制作物の必要性・有用性を求められれば、このツールを使って説得力のあるデータをすぐに提出することもできる。いまは、D-Plannerありきで制作が回っていると言っていいでしょう。

──動画以外にも活用されている例があればお聞かせください。

久保田氏:私が関わった領域では、パンフレットなどの印刷物にD-Plannerを使ったことがあります。住宅ローンの場合など「〇〇年連続ナンバーワン」と大きく実績を入れてしまいがちですが、分析結果ではそこに注目が集まりすぎて、肝心のメッセージが伝わっていませんでした。

でも「金利の面を押すのであれば、もう少し実績の文字を小さくしませんか」と、ヒートマップの画像を示せば反発は起きにくい。こちらの意見を一目瞭然で伝えられるという意味でも、非常に助かっています。

──D-Plannerとの向き合い方について、どのようにお考えですか。

板谷氏:D-Plannerは、私にとって新しい角度からアイデアをくれる壁打ち相手のような存在です。チームではなく一人で進める領域でも、仮説を立てて検証すると「その通り」「いや、この箇所を修正した方がいい」と、忖度(そんたく)なく、ぶれない答えを返してくれる。

ただ、何でもテクノロジーに任せればいいというものではない気もします。そこにすべてを委ねてしまうと、場合によっては画一的で面白くないクリエイティブになってしまうかもしれません。

久保田氏:D-Plannerは、その辺の塩梅が絶妙です。人の創造性を尊重する余白がきちんと残されている。これからも制作は、人とAIのハイブリッドで進めていく方針です。

──今後、D-Plannerの導入を検討している企業へのメッセージはありますか。

久保田氏:率直に申し上げるとこれだけ便利なもの、うちだけで使いたいという気持ちもあります(笑)。一方で私たちと同じような課題に頭を抱えている企業があるなら、なぜ使わないの?と問い掛けたくもある。いずれにしても、これまでのクリエイティブ制作の常識を大きく変えるツールだと感じています。