事例紹介

わが社に「超人」がやってきた 消費者の仮想脳を搭載したAIが変えるパッケージ戦略イメージ

わが社に「超人」がやってきた 消費者の仮想脳を搭載したAIが変えるパッケージ戦略

株式会社たらみ

業種 食品・飲料
わが社に「超人」がやってきた 消費者の仮想脳を搭載したAIが変えるパッケージ戦略イメージ

消費者が商品を見るのは、わずか一瞬──。興味を引くパッケージデザイン開発は、容易ではない。「良いデザインができた」とひざを打っても、実際に棚に並ぶと、ちょっとしたバランスや要素のずれで消費者からネガティブな反応が返ってくることもある。1969年創業の老舗フルーツゼリーメーカー「たらみ」もそうした課題に向き合ってきた企業の一つ。脳反応を予測するAI(人工知能)でクリエイティブに評価を下すクリエイティブ評価ソリューション「D-Planner」を導入したことで、パッケージデザイン制作はどう変わったのか。マーケティング部 古木希美副部長、同部 河村昌太シニアマネージャーに聞いた。

──マーケティング部の業務内容とミッションをお聞かせください。

古木希美氏(以下、古木氏):私たちの所属する部は、素材から味まで徹底的にこだわるたらみの商品を世に広げるべく、文字通りマーケティング全般を担当しています。

消費者のニーズを読み取る市場調査から、それに基づく商品企画の策定と開発、加えて、たらみのファンを増やすためのブランドコミュニケーションまで。商品の販売数を左右する大事な要素であるパッケージデザインの制作も担当し、ここでD-Plannerが活躍しています。

株式会社たらみ マーケティング部 副部長 古木 希美 氏

──D-Plannerを導入したきっかけは?

古木氏:使い始めたのは約1年前です。写真や動画などのクリエイティブに対する知覚・印象を仮想脳で予測し、定量的に評価するツールがあると、開発部を通して紹介されました。当時はまだ、AIが世に浸透する少し前。「そんなものが本当にあるのか」と驚きましたが、それでもすぐに使ってみたいと思いました。買い物の大きな接点であるパッケージデザインの制作において、一助になるはずとの直感があったからです。

幸い、上司は感情論よりきちんとしたデータを重んじる姿勢のため、必要性への理解は早く、導入までスムーズに漕ぎ着けました。一度の利用につき、そのつど料金を支払うチケットのプランを組んでいただいたおかげで、予算のハードルが低かったことも有利に働いたと思います。

──実際に使ってみて、いかがでしたか。

古木氏:すぐに手応えを感じました。以前は消費者調査を含めて、分析に関わるのはすべて人。好みや気分によって結論が異なりますし、それら一つひとつを重ねていくと、ときには何が正しいかわからなくなって、思考の迷路にはまり込んでしまう。

D-Plannerは、その混沌とした状況にやって来た「揺るぎない姿勢を持った第三者」でした。どんな状況にも左右されない、コンディションの安定した超人が入社してきた、とでもいいましょうか(笑)。

例えばコンビニでの販売を計画する場合、スーパーと異なり、毎月のように多くの新商品が店頭に並ぶコンビニでは、棚でどれだけ目立つかが勝負となります。そうなると、長年弊社で培った一目瞭然でたらみの商品だとわかるパッケージデザイン資産から距離を置き、目新しさで挑戦する必要が出てくるわけです。

「たらみらしさ」をときには無慈悲に切り捨てて、忖度(そんたく)なく純粋にパッケージデザインの質だけを分析する──。そうした判断は、どうしても私見が入り混じってしまう人間では難しい。D-Plannerは、まさにそこのところを俯瞰(ふかん)して、率直に、迅速に結果を出してくれます。そのため、いまでは部内の大半が同ツールを駆使し、より精度の高い分析をめざしています。

──具体的にどのような使い方をしているのでしょう。

河村昌太氏(以下、河村氏):たとえば、好評だったゼリーのパッケージデザインをリニューアルする場合なら、まずはデザイナーからもらった10案を、D-Plannerと社内アンケートで絞り込んでいきます。

株式会社たらみ マーケティング部 シニアマネージャー 河村 昌太 氏

主に使う機能は、訴求したい箇所に注意が向いているか、ヒートマップにより注視度を視覚化する「アテンション」や「行動意向予測」、パッケージデザインのコンセプトや意図に沿って確認したいワードを設定し、意図の伝達程度をグラフ化する「コンセプト(GAP)分析」、どんな印象を持たれているかを印象ワードで確認する「印象度予測」など。

既存のパッケージデザインと対比・分析して、新しいパッケージデザインのスコアが上なら、従来品よりも売り上げの向上が見込めます。分析結果が図解なので、社内で説明しやすいのもうれしいところです。

とはいえ、いいパッケージデザインができたと机上でうなずいても、実際に売り場に並ぶと埋もれてしまうケースも少なくありません。そこで差別化をはかるため、「先発組」の自社・他社製品と新商品を棚に並べた画像をつくり、アテンションをかけてどれだけ目立つかといった検証もしています。

近年では、高級感が製菓のトレンドの一つです。そこをめざしたパッケージデザインなら、たとえ購買意向のスコアが下がっても「高級」「女性的」「美しい」などの印象の高さを優先するなど、ケースに応じた使い分けもしています。

※商品パッケージデザインの「印象度予測」の分析レポート

──導入にあたり、制作側のハレーション(反発)は生まれませんでしたか。

河村氏:意外かもしれませんが、まったくありませんでした。デザイナーも、同ツールが選んだ最良の案を見て「いまだから言うが、正直私もこれが一番出来がいいと思っていた」と。制作意図までしっかりと汲み取った分析力に、驚いていたこと覚えています。

他方で、予想外の気づきもありました。それは既存のデザイン構成に見慣れて、頭から除外してしまっていたJANコードや表示が、評価に大きく影響していたことです。

「コードはデザインではない」──。長年のそんな「常識」が、公正さを奪っていたわけです。JANコードに視線が集中するアテンションの結果を見て、限られたスペースのなかでコードがいかにいい位置を陣取っていたかを改めて知り、目からうろこが落ちました。

──D-Plannerに対して、他部署からの反応があればお聞かせください。

古木氏:営業をする際、資料にあるアテンションの画像がわかりやすいと好評です。純粋に購買客がどう感じるのか、得意先との関係性にとらわれないそんな分析データが資料の説得力を増し、商談をスムーズに進めるための一翼を担っている可能性があると感じています。

資料にD-Plannerの説明文を加えているのも、信用を得られている一因かと。同ツールをつくったのが自社やあまり知名度のない企業ではなく、ITサービス大手・NTTデータというのも大きな後ろ盾になっていると思います。

──導入することにより、どのような費用対効果があったと感じていますか。

古木氏:弊社では新商品やリニューアル品を、平均して年に40ほど生み出しています。その開発したパッケージデザインをすべて消費者テストする場合、1件につき20万円かかる試算です。これを丸々D-Plannerで補えば、その費用を差し引いても約600万円の削減効果が期待できます。

──D-Plannerのさらなる活用方法があればお聞かせください。

河村氏:これまではパッケージデザインに対する機能のみでしたが、いまはキャッチコピーの分析にも使い始めています。例えば、ぶどうゼリーのキャッチコピーを新しくする際に、候補として挙がっていた「W果汁仕立て」では普通過ぎるなぁと思い、時間の無い中でAIツールなどを駆使しながら125案の代替案を考え、D-Plannerで分析をしてみました。その中で最も高いスコアを出したのが「爽やか芳醇W果汁」というコピーでして、過去に市場からの評判の高かったコピーの2倍ほど高い予測結果でした。コピーの代替案を検討し始めてからおよそ3時間程度で優れたコピーの採用まで辿り着けたことは、業務時間の圧縮とコピーの質の向上の両面で効果が出せるのではないかと期待しています。

古木氏:キャッチコピーの他には、それこそいまは感覚を頼りにしている店頭ポップの制作に、D-Plannerを活用するのもいいかと。弊社の商品が並ぶ棚を素通りさせないための魅力的なポップをどうつくっていくか、載せるコピーを含め、まだ改良の余地はあると思いますので。

また、営業職が提案用の資料づくりのため自由に使うのもいいですし、通販部がサイトのUX(ユーザーエクスペリエンス)の改善に使うのもいい。この「超人」が活躍できる場は、社内にまだまだあると感じています。