事例紹介

AIが審査し、人間がうなずいた D-Plannerが見抜いた"本当に心を動かす映像"イメージ

AIが審査し、人間がうなずいた D-Plannerが見抜いた"本当に心を動かす映像"

日本コロムビアグループ株式会社

業種 音楽・エンターテインメント
AIが審査し、人間がうなずいた D-Plannerが見抜いた"本当に心を動かす映像"イメージ

AI(人工知能)がつくった作品を、AIが評価する──。そんなSFのような取り組みに挑んだのが、日本コロムビアグループ主催のAIクリエイティブコンテスト「コロテック(COLOTEK)」だ。AIで制作されたミュージックビデオ(MV)を審査するにあたり、同社が導入したのは、脳反応を予測するAIでクリエイティブに評価を下すクリエイティブ評価ソリューション「D-Planner」。人間の感性や好みに左右されがちなクリエイティブ評価に、客観的な視点をどう持ち込んだのか。日本コロムビアグループ AX推進本部 事業開発部・中村美里氏、森﨑樹生氏に話を聞いた。

AI(人工知能)がつくった作品を、AIが評価する──。そんなSFのような光景が、いま現実になっている。NTTデータのクリエイティブ評価ソリューション「D-Planner」が、日本コロムビアグループ主催のAIクリエイティブコンテスト「コロテック(COLOTEK)」の審査に採用され、AIで制作されたミュージックビデオ(MV)の評価を支援した。

これまで2回開催された同コンテストでは「氷川きよし with t.komuro」や美空ひばりさんの楽曲を題材に、多くのクリエイターがAIを駆使したMV制作に挑戦した。

AIは何を基準に「良い映像作品」を判断するのか。人間の審査員とともに審査を担ったD-Plannerの役割と、その評価の仕組みについて、日本コロムビアグループ AX推進本部 事業開発部の中村美里氏、森﨑樹生氏に聞いた。

──まず、AIクリエイティブコンテスト「コロテック」立ち上げの経緯を教えてください。

中村美里氏(以下、中村氏):きっかけは、2025年3月に新しく就任した社長の佐藤俊介氏(CEOセオ氏)から「会社としてAIに取り組んでいこう」という方針が示されたことでした。その方針のもとで最初に始まったのが、AIクリエイティブコンテスト「コロテック」です。

社長自身、起業家でありアーティストでもあるので、ミュージックビデオ(MV)制作の大変さを実感していたようでした。そこで「AIでMVを制作するコンテストを開けば、新しい才能も発掘できるのではないか」という発想が生まれ、私たちが企画を具体化していきました。

森﨑樹生氏(以下、森﨑氏):本格的に動き始めたのは昨年5月ごろです。どの楽曲を課題曲にするのか、どのような形ならAI活用の可能性を示せるのかを各所と議論しながら進めました。ただ、何から何まで初めての取り組みです。手探りで進めていったというのが正直なところでした。

──コロテックは、会社としてどのような位置づけなのでしょうか。

中村氏:目的の1つは、新しい才能の発掘です。AIによって表現手段が広がるなかで、クリエイターが活躍できる場をつくりたいと考えています。

実際、第2回のコンテストで最優秀賞を受賞した方の1人はもともと他業種の方でしたが、その後に制作案件の依頼が増えたとおっしゃっていました。コロテックへの参加そのものが、一つの実績として機能し始めていると感じています。

森﨑氏:参加者の幅も非常に広い。10代から60代までが顔をそろえ、中学生もいれば大学教授もいました。映像制作を本業としている人は半数以下です。

頭の中につくりたいものはあったけれど、それを映像化する技術や手段がなかった方々が、AIによって表現できるようになってきました。これまでは技術を持つ人だけがクリエイターになれましたが、AIによって発想そのものが価値になる時代がやってきたと実感しています。

──AI作品を評価する難しさもあったと思います。

森﨑氏:クリエイティブのコンテストは、どうしても審査員の好みが反映されます。これは人が判断する以上、避けられないことです。もちろん感性は重要ですが、それだけではなぜ評価されたのかという根拠が見えにくい。

何か公正な評価軸を作れないかと考えていたときに出会ったのがD-Plannerでした。NTTデータさんとブレストを重ねるうち、AIで制作された作品をAIで評価することで、人間の好き嫌いとは別の視点を持ち込めるのではないかと考えるようになったのです。

人の審査員の感性はもちろん大切です。ただ、それとは別に、作品がどのように受け止められるのかを客観的に見る手段があれば、評価の納得感も高まる。その可能性を感じたことが導入の大きな理由でした。

中村氏:とはいえ、ただD-Plannerで評価した数字を並べるだけではイベントとして面白くありません。そこで公式マスコットの「AIコロちゃん」をつくり、AI審査員として登場させました。コンテストではさまざまな賞を設け、その中でD-Plannerが高く評価した作品に「AIコロちゃん賞」を贈りました。

──第1回では、どのような審査を行ったのでしょうか。

中村氏:課題曲は「氷川きよし with t.komuro」の『Party of Monsters』でした。すでにミュージックビデオがある楽曲だったので、新たにハロウィーンをテーマにしたAI作品を募り、そこに合わせてD-Plannerの評価軸として「テーマ適合性」と「好感度」を設定しました。

森﨑氏:D-Plannerではキーワードとのマッチ度も測定できます。その機能を知ったときは驚きました。

たとえば「怖い」という要素は一般的な広告の評価ではネガティブに働く場合がありますが、ハロウィーンという文脈ではむしろ魅力になります。単純な感情分析ではなく、その作品が置かれた状況の中でどう受け止められるかまで踏まえて評価できるところが面白いと感じました。

中村氏:象徴的だったのは、その作品が優秀賞とのダブル受賞だった点です。AIが選んだ作品を、人間の審査員も高く評価したわけですね。

企画当初には、参加者の方から「AIに審査されるのですか」といった声をいただくこともありました。ただ、D-Plannerの評価結果をご覧いただくと、AIが作品の優劣を一方的に決めるのではなく、人間の感性を別の角度から可視化するものだと受け止めてもらえたように思います。実際、その後は「AIに審査されること」への戸惑いの声は、私たちのところには特に届いていません。

森﨑氏:ここ数年で、世間でのAIに対する信頼度も大きく高まってきていると思います。ただ、現時点の生成AIにそのまま審査を任せればよいという話ではありません。人間の感性をデータとして分析しているD-Plannerだからこそ、意味のある評価ができたのだと思います。

D-Plannerは「なんとなく良かった」で終わりがちなクリエイティブの評価を、きちんと理論的に可視化してくれる。そこに大きな価値を感じました。

──第2回では審査軸を見直しています。

中村氏:本回の課題曲には、美空ひばりさんの『川の流れのように』を選びました。第1回で設定したハロウィーンのような明確なテーマは、今回は設けませんでした。

クリエイターごとに伝えたいストーリーが異なるため、作品によって表現の方向性も大きく変わります。そのため、NTTデータさんからの提案を受け、「好み/嗜好」「好感度平均」「好感度ピーク」の3つの指標を採用しました。映像を視聴している際に感じる心地よさや、どの場面で感情が動いたのかを評価に反映するためです。

森﨑氏:興味深かったのは「好感度ピーク」によって視聴者の感情が最も大きく動いた瞬間を可視化できたことです。作品全体の評価だけではなく、どの演出が心に残ったのかまで見えてくる。人間であれば感覚的にしか捉えられない部分をデータとして確認できるので、評価結果に対する納得感も高まりました。

中村氏:D-Plannerが、日本人の脳活動データをもとに評価しているという点も重要だったと思います。特に『川の流れのように』は、日本人の中に長く蓄積されてきた記憶や感情と結び付いている楽曲です。

もちろん海外で開発されたAIでも映像の分析はできますが、日本人がどのような表現に共感し、どのような場面で感情を動かすのかという部分には文化的な違いがあります。

その点、D-Plannerなら単に映像の構成や情報量を見るのではなく、日本人の感覚に近いところから反応をとらえることができる。第2回の審査では、その強みが特によく表れていたように感じています。

──人の審査員と比べ、D-Plannerはどのような存在でしたか。

森﨑氏:私は「最初の審査員」だと思っています。AIが結論を決めるのではなく、一般視聴者に近い感覚を先に示してくれる。その結果を見たほかの審査員からも「やっぱりね」「この作品は外せない」という反応が多くありました。

中村氏:審査員にはそれぞれの立場や価値観があります。作品性を重視する人もいれば、音楽との親和性や完成度を重視する人もいる。その中でD-Plannerは、特定の立場ではなく標準的な視聴者の感覚を示してくれる存在でした。人間の審査を補完するツールとしても、大変有効だったと思います。

森﨑氏:興味深かったのは、高く評価されたのは演出や感情の流れを丁寧につくり込んだ作品だったことです。

生成AIによって映像をつくること自体は、今後さらに簡単になるでしょう。でも、それだけで人の心を動かせるわけではありません。最後まで見せきる力や感情をつなぐ力は、人間の演出力にかかっています。D-Plannerが評価していたのも、結局はそうした人間らしい表現だったように思います。

──今後は、D-Plannerをどのように活用していきたいですか。

中村氏:コロテックは今後も、さまざまな形での開催を予定しています。次回は課題曲のMVを制作する形式ではなく、クリエイター自身が自らのストーリーをもとにアニメ作品をつくる形式で実施する予定です。すでに作品の提出も始まっており、この分野への関心の高まりをますます感じています。

今後はMVやアニメ、映画、CMなど、さまざまな展開が考えられると思っています。そうなれば、作品の評価の仕方もこれまでとは変わってくるはずです。映像作品のどの部分をどう見るのか、人間が評価すべき部分と、D-Plannerのような評価技術が力を発揮できる部分を整理しながら、NTTデータさんと一緒に考えていきたいと思っています。

人間が発想し、AIが制作を支援する。さらにD-Plannerのような評価技術によって、作品のどこで感情が動いたのかを振り返ることができる。そうした創作と評価の新たな循環は、AI時代のクリエイティブプロセスを支える一つのヒントなのかもしれないと思っています。